爆発防護 / 爆発防護について

爆発放散面積の算出方法

  
映像1:集じん機の爆発放散口による爆発放散
規格に沿って設計された爆発放散口を設置した、集じん機の爆発放散の様子です。爆発発生時には、放散口が瞬時に開口し、機器が破壊することなく、放散口より爆発放散されています。

爆発放散口(エクスプロージョン・ベント)のガイドラインとしては、海外では欧州標準化委員会の下でまとめられているEN14491(粉じん爆発)・EN14994(ガス爆発)、粉じん爆発とガス爆発の両方を扱う全米防火協会のNFPA68(2007)などがあります。

国内においては、独立行政法人労働安全衛生総合研究所の爆発圧力放散設備技術指針の改訂版NIIS-TR-No.38(2005)が刊行されました。このガイドラインは粉じん爆発およびガス爆発の放散面積の算出については、NFPA68(2002)とほぼ同じ内容となっています。

  • 独立行政法人労働安全衛生総合研究所 爆発圧力放散設備技術指針 改訂版 NIIS-TR-NO.38(2005)
  • 規格入手先:(社)産業安全技術協会、電話:03-3455-3957(代)

以下に爆発圧力放散設備技術指針(以下指針)に沿った爆発放散面積の算出方法と、NFPA68(2007)の特徴(主に指針と異なる点)とを解説します。詳細につきましては指針を参照ください。

また、本ページでの計算結果については、弊社では一切責任は持てませんのでご注意ください。

1.用語

Pstat
静的動作圧力[×102kPa = bar]
爆発放散口の破裂セット圧力
条件:0.1≦Pstat≦0.5〔x102kPaG=barG〕
※実際のPstatが0.1〔x102kPaG=barG〕未満での設定の場合であっても、計算上では0.1以上が必須
Pred
放散圧力[×102kPa = bar]
爆発放散口の作動により低減された機器内の爆発圧力の最大値
条件:0.15≦Pred≦2〔102kPaG=barG〕
※PstatとPredの差圧は最低5kPaG必要です。現実的には、20kPaG以上であることが望ましいです。数値が高いほど、必要放散面積は小さくなり、小口径の爆発放散口を選定できます。
Pmax
最大爆発圧力[×102kPa = bar]
密閉容器で爆発により発生する圧力の最大値
条件:5≦Pmax≦12〔x102kPaG=barG〕
Kst
最大圧力上昇速度に基づいて定義される、爆発の激しさを相対的に表す爆発指数(粉じんの場合)
V[m3]を実験容器の容積とすると、次式で与えられる。Kst=(dP/dt)max・V1/3 [×102kPa-m/s = bar-m/s]
条件:10≦Kst≦800〔x102kPa-m/s=bar-m/s〕
KG
最大圧力上昇速度に基づいて定義される、爆発の激しさを相対的に表す爆発指数(ガスの場合)
V[m3]を実験容器の容積とすると、 次式で与えられる。KG =(dP/dt)max・V1/3 [×102kPa-m/s = bar-m/s]
条件:KG≦550〔x102kPa-m/s=bar-m/s〕
L/D
爆発放散口を取付ける装置の長さと内径の比。円筒形以外の形状についてはDの代わりに相当径DE[m]を使う。
装置の上部径と下部径が異なる場合は、どちらか径の大きい側をDとする。バグフィルターの場合、Lはダーティーエリアのみであり、クリーンエリアはLには含まない。
DE
相当径[m]
装置の断面積をA[m2]とした場合、次式で与えられる。
ダクトやパイプに対する相当径はDEの代わりにDHE = 4A/Lpを使う。ただしLpは断面の周の長さの和とする。DE=2(A/π)1/2 [m]
危険等級
粉じんの爆発危険性を表す等級。Kstの大小により3つの等級St1,St2,St3に分類される。爆発クラスともいう。

表1:危険等級
危険等級
(爆発クラス)
爆発指数
Kst(×102kPa-m/s)
最大爆発圧力
Pmax(×102kPaG)
内容
St 10〜200≦10爆発の激しさが弱い粉じん
St 2201〜300≦10爆発の激しい粉じん
St 3300を超える場合≦12爆発の激しさが特に大きい粉じん
  • ハイブリット(プロパン相当ガス&St=1又は2粉じんの混合物)で、実際のテストデータ値が無い場合は、[ Pmax=10, Kst=500 ]として計算する。(NFPA68より)
  • Kst値は最大800まで適用できる。これらの特性値の測定方法は「JIS Z 8817:2002」に記載されている。

2.圧力段階

上記用語以外に、機器の強度の関わる以下の用語があります。

Pyield
機器の変形圧力[×102kPaG = barG]
機器が変形を開始するが、まだ破損はしない圧力
Pult
機器の破壊圧力[×102kPa G= barG]
機器の全体的な破壊、接合部の破壊が発生する圧力

圧力段階は以下になります。
Pult > Pyield ≧ Pred > Pstat
※ Pred が不明な場合の目安として「Pred ≦ 2/3 Pult」という考えがあります。(NFPA68)

3.ガス爆発に対する放散面積の算出方法

L/Dが2以下の場合

必要な放散面積( Av) は次式によって求められます。
Av = {(0.127log10KG-0.0567)Pred-0.582 +0.175Pred-0.572 (Pstat-0.1)}V2/3〔m2

L/Dが2を超え5以下の場合

まず上式を使ってAvを計算し、次式で計算される⊿Aを加えたものが必要な放散面積となります。
⊿A =〔AvKG{(L/D -2)2〕/750〔m2

放散ダクトを取付けた場合の考慮

機器が屋内設置の場合は、爆発の大気放散ができません。爆発圧力と火炎を屋外へ導くための放散ダクトの取付けが必要となります。ただし、放散ダクトの取付けにより爆発放散の効率は大幅に減少し、放散爆発圧力(Pred)は増加します。 そのため、Predを以下のように補正し、得られたP´redを使って放散面積Avを計算する必要があります。
つまり、小さく補正されたP´redを使って計算された放散面積は、元の放散面積よりも大きくなります。

放散ダクトの長さが設置する爆発放散口の口径以下の場合、放散ダクトによる放散爆発圧力(Pred)の補正の必要はありません。(NFPA68より)

例) 爆発放散口径がΦ1mの場合、1m長以内の放散ダクトの設置が認められています。

  1. ダクトの長さが3m未満の場合
    P'red = 0.779Pred1.161 〔x102kPaG = barG〕
  2. ダクトの長さが3m以上6m以下の場合
    P'red = 0.172Pred1.936 〔x102kPaG=barG〕
放散用ダクトによる放散圧力の影響(ガス爆発の場合)  
図1:放散用ダクトによる放散圧力の影響(ガス爆発の場合)
SI単位への標準化の流れを汲み、圧力の単位はkPaGを使っておりますが、NFPAとの整合性を保つためbarGによる表記を併用しています。計算式に代入する値はbarGの数値であることにご注意ください。(例・Pred=0.5barG=0.5×102kPaGの場合、Predとして計算式に代入する数値は「50」ではなく「0.5」となります。)

4.粉じん爆発に対する放散面積の算定方法

L/Dが2以下の場合

必要な放散面積(Av)は次式によって求められます。
Av = (8.535×10-5)(1+1.75Pstat)KstV0.75{(1-Π)/Π}1/2〔m2
※ Π = Pred/Pmax

L/Dが2を超え6以下の場合

まず上式を使ってAvを計算し、次式で計算される⊿Aを加えたものが必要な放散面積となります。
⊿A = 1.56Av{(1/Pred)-(1/Pmax)}0.65log10{(L/D)-1}〔m2

放散ダクトを取付けた場合の考慮

機器が屋内設置の場合は、爆発の大気放散ができません。爆発圧力と火炎を屋外へ導くための放散ダクトの取付けが必要となります。ただし、放散ダクトの取付けにより爆発放散の効率は大幅に減少し、放散爆発圧力(Pred)は増加します。 そのため、Predを以下のように補正し、得られたP’redを使って放散面積Avを計算する必要があります。つまり、小さく補正されたP’redを使って計算された放散面積は、元の放散面積よりも大きくなります。(ただし、機器のL/Dが2以下の場合にのみ適用可能)

放散ダクトの長さが設置する爆発放散口の口径以下の場合、放散ダクトによる放散爆発圧力(Pred)の補正の必要はありません。(NFPA68より)

例) 爆発放散口径がΦ1mの場合、1m長以内の放散ダクトの設置が認められています。

爆発放散時の火柱発生の模様(放散ダクトを使用せず直接大気へ放散のケース)  
写真1:爆発放散時の火柱発生の模様(放散ダクトを使用せず直接大気へ放散のケース)

P'red = Pred{1+17.3(Av/V0.753)1.6(Lv/Dv)}-1〔x102kPa〕
※ Lv:放散用ダクトの長さ〔m〕、Dv:放散用ダクトの相当径(DEあるいはDHE)〔m〕、Av:放散面積〔m2
ここで注意すべき点は、P’redの式にAvが含まれている点です。このため、Avが収束するまでAvとP’redを繰り返し計算する必要があります。

放散用ダクトの長さによる放散圧力の影響(粉じん爆発:L/D=1, Dv=DE, v=15m3, Av=1.54m2の場合)  
図2:放散用ダクトの長さによる放散圧力の影響(粉じん爆発:L/D=1, Dv=DE, v=15m3, Av=1.54m2の場合)
SI単位への標準化の流れを汲み、圧力の単位はkPaGを使っておりますが、NFPAとの整合性を保つためbarGによる表記を併用しています。計算式に代入する値はbarGの数値であることにご注意ください。(例・Pred=0.5bar=0.5×102kPaの場合、Predとして計算式に代入する数値は「50」ではなく「0.5」となります。)

5.バグフィルターに取付ける場合

バグやフィルターカートリッジなどのろ過材の高さと、爆発放散口を設置する高さの位置関係によって、装置の容積V[m3]の計算方法が異なります。ただし、上面の清浄空気層であるクルーンエリア部は常に容積Vから除外して計算できます。

5-A:最善な取付位置

バグフィルター取付図A

ろ過材の下端よりも下に爆発放散口(ドーム状金属色の爆発放散口を正面に取付)を設置する場合が最善な取付位置です。

容積Vにはろ過材の容積(白色部)を含める必要はなく、「容積V=青色部」となります。

5-B:ろ過材と爆発放散口の高さが重なる場合

バグフィルター取付図B

ろ過材と爆発放散口の高さが重なる場合、ただし重なり具合の限度は、ろ過材下端と爆発放散口(ドーム状金属色の爆発放散口を正面に取付)下端が一致する部分までとなります。

容積Vにはろ過材の容積を含め「容積V=青色部+白色部」となります。
つまり(5-A)の場合よりも算出される放散面積Avが大きくなります。

5-C:ろ過材と爆発放散口の高さが重なる場合、且つ、重なり限度を超えた場合

バグフィルター取付図C

ろ過材と爆発放散口の高さが重なる場合で、(5-B)の重なり限度を超えた場合、すなわち、ろ過材下端よりも上方に爆発放散口(ドーム状 金属色の爆発放散口を正面に取付)下端が位置する状態で取付けることは推奨できません。

このレイアウトでは、ろ過材が爆発放散口の開口面を塞ぎ爆発放散が阻害されるためです。

参考(NFPA68より)

過材に爆発放散口が完全にかかる(5-C)の場合、指針では爆発放散口設置は認められておりませんが、NFPA68では、ある措置によって使用が認められています。
(5-C)の様に爆発放散口を設置する場合、爆発時にろ過材が爆発放散の妨げとならない様、以下I, IIいずれかの措置が必要となります。

  1. 爆発放散口設置位置より、爆発放散口径長さの距離内の左右および奥行きに位置するろ過材を、爆発放散口上端まで短くカットし、爆発放散口径より奥に位置するろ過材が爆発放散の妨げとならない様、バーを設ける。(写真2)
  2. 爆発放散口設置位置より、爆発放散口径長さの距離内の左右および奥行きにあるろ過材を取り除き、爆発放散口径より奥に位置するろ過材が爆発放散の妨げとならない様、バーを設ける。(写真2)
図3:バグフィルター断面図
バグフィルター断面図 加工無しのろ過材 短く加工されるろ過材 or 取り除けられるろ過材 ろ過材による爆発放散妨げを防御するためのバー ベント径(D) D D
抑えバー  
写真2:抑えバー

5-D:爆発放散口の取付に問題が出るレイアウトを改善する方法

バグフィルター取付図D

爆発放散口の取付に問題が出る(5-C)のレイアウトを改善する方法として、爆発放散口の設置が難しいホッパー部を取り払い、サークルフィーダー(HUV排出装置)に変更する方法があります。

延長できた直胴部を生かし、ろ過材の下端よりも下に爆発放散口(ドーム状金属色の爆発放散口を正面に取付)を設置します。

このレイアウトでは、特別に容積Vにはろ過材の容積(白色部)を含める必要はありません。
「容積V=青色部」

爆発放散口を装備した爆発放散前の集じん機  
写真3:爆発放散口を装備した爆発放散前の集じん機
爆発放散口を装備した爆発放散後の集じん機  
写真4:爆発放散口を装備した爆発放散後の集じん機
爆発放散口により爆発放散中の集じん機  
写真5:爆発放散口により爆発放散中の集じん機
爆発放散後の集じん機の爆発放散口部分  
写真6:爆発放散後の集じん機の爆発放散口部分
ろ過材下端と爆発放散口の下端が一致する場合、またはろ過材下端が高い場合は、ろ過材が爆発放散口開口面から振り子状にスムーズに押し出され、爆発放散時の障害とならないのが分かります

6.その他の留意事項

初期圧力が高い場合、装置内の限られた場所のみ粉じんが存在する場合については、別途考慮する必要があります。詳しくは指針をご参照ください。

前述の放散面積の計算式はW.Bartknechtの実験データに由来しますが、その式の開発に用いられたデータが上記NFPAの表とは若干異なる場合があります。現在各地の研究機関において見直し、修正が行われていますが、より計算式に適合するように修正された、いくつかのKG値は表2を参照ください。
また、代表的な可燃性粉じんの爆発指数の例は表3、表4を参照ください。

表2:可燃性ガス・蒸気の修正爆発指数の例
ガス・蒸気推定値
(KG)
補正値
(KG)
Pmax
[x102kPa]
アセトン59847.3
イソブタン67677.4
エタン781037.4
エチルアルコール781037.0
エチレン1712438.0
1,1-ジフロロエタン59757.7
ジメチルエーテル1081487.9
水素638*6.5
プロパン761007.3
メタン46556.7
メチルアルコール941277.2

W.Bartknecht,Explosions-Schutz:Grundlagen und Anwendung,Springer-Verlag(1993)

表3:可燃性ガス・蒸気の爆発指数の例
ガス・蒸気Pmax
[x102kPa]
KG
[x102kPa]
亜硝酸メチル11.4111
アセチレン10.61415
アセトフェノン7.6109
アンモニア5.410
イソプロパノール7.883
エタン7.8106
エチルアルコール7.078
エチルベンゼン7.496
酸化オクチル8.0116
酸化メチレン5.05
オクタノール6.795
ジエチルエーテル8.1115
ジメチルホルムアミド8.478
ジメチルスルホキシド7.3112
水素6.8550
トルエン7.894
β-ナフトール4.436
二硫化炭素6.4105
ネオペンタン7.860
ブタン8.092
プロパン7.9100
ペンタン7.8104
南アフリカ原油6.8-7.636-62
メタン7.155
メチルアルコール7.575
硫化水素7.445

NFPA68,Guide for Venting Deflagrations, National Fire Protection Association(2002)

表4:可燃性粉じんの爆発指数の例
粉じん粒子径
[μm]
Pmax
[x102kPa]
Kst
[x102kPa/m/s]
St
(危険等級)
小麦粉229.91151
コルク429.62022
コーンスターチ710.32022
砂糖308.51381
セルロース339.72202
大豆粉209.21101
脱脂ミルク608.81251
トウモロコシ289.4751
米粉189.21011
木粉2910.52052
活性炭287.7441
瀝青炭249.21291
かっ炭3210.01511
木炭149.0101
亜鉛<107.31761
アルミニウム2912.44153
青銅184.1311
マグネシウム2817.55083
アジピン酸<108.0971
アスコルビン酸399.01111
アントラキノン<1010.63643
硫黄206.81511
酢酸カルシウム856.5211
ステアリン酸カルシウム129.11321
ステアリン酸鉛129.21521
デキストリン418.81061
ラクトース237.7811
エポキシ樹脂267.91291
低圧ポリエチレン<108.01561
フェノール樹脂<109.31291
ポリアクリルアミド105.9121
ポリアクリル酸メチル219.42692
ポリアクリロニトリル258.51211
ポリ酸化ビニル1077.6461
ポリビニルアルコール268.91281
ポリプロピレン258.41011
メラミン樹脂1810.21101
  • 粒子径:質量基準の中位径
  • ASTM E 1226-2000,Standerd Test Method for Pressure and Rate for Pressure Rise for Combustible Dusts